オハンロン著の『ミルトン・エリクソン入門』に紹介されている事例を抜粋します。
「ある女性の家に姻戚縁者が終始やって来ては長い間居座るため、彼女はそのストレスで潰瘍を作ってしまった。エリクソンは彼女に言った。その人たちのせいで“a pain in the belly” のは本当だし、だからあなたは今、職場でも、教会でも、社会関係でも、家族の中でもうまくやれていないのです。お腹の痛みは必要なものであり、それを、役に立つような場面でうまく使う方法を学んだほうが良いいいですよ。そうすれば何かいいことがあるかもしれません。彼女はこのアイディアが気に入った。その後、彼女はその人たちがやって来ると、急いでコップ1杯の牛乳を飲み干し、彼らの到着数分後にはそれを嘔吐するということを、何度もやり始めた。彼女は具合が悪いのだから、その後始末など期待できるはずもなく、したがって彼らが床掃除をしなければならなかった。彼らはそうしげしげとは来なくなり、また来る前には電話をかけてよこすようになった。(中略)しばらくして潰瘍は治癒した。」
以前紹介した自殺計画中のうつの女性のケース同様に、エリクソンは患者自身の思い込みや悩み、課題などを逆に治療に応用することを得意としているように見えます。このような手法を「利用」という意味でUtilization (ユーティライゼーション)とオハンロンは呼んでいます。
私は暗示を考える際に、極力、その対象者が抱いている思考や感情などに付け加えるように文章を作ることが多いですが、それほど無意識の構造は強固でそれに真っ向逆らう暗示を入れていくことが難しいということなのだと思っています。
しかし、それにしても、エリクソンの実践には破天荒な事例が非常にたくさん見つかります。
☆参考書籍:『ミルトン・エリクソン入門』
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