2005年にダマシオらが発表したアイオワギャンブリング課題では、人間の意志が身体から発せられる信号(ソマティック・マーカー)に従っているという説が、心理学者の妹尾武治の『未来は決まっており、自分の意志など存在しない。心理学的決定論』で紹介されています。
被験者は四つのカードの束の山(A、B、C、D)から、賞金か罰金の書かれたカードを1枚ずつ引きます。AとBの賞金は100ドルですが、10枚に1枚1250ドルもの罰金のカードが入っていて、ハイリスク・ハイリターン。CとDの賞金額は50ドルですが、罰金も10枚に1枚250ドルが入っていて、総合的に見て得をするローリスク・ローリターンの金額になっています。
合計金額を高くするように求められた被験者は、80枚ぐらい引いた所で、意識レベルで「ABは危険で、CDは安全」と明確に認識していることが調査で判明しました。しかし、勘でそのように感じ始めたのはもっと前で50枚ぐらいの段階。さらに実際のカードを引く行動からABの束が避けられ始めるのは40枚目ぐらいの段階でした。被験者は手から出ている精神性発汗もモニタされていましたが、20枚目以下の段階から、ABの束からカードを引く際の発汗量は、そうではない時に比べて有意に高くなっていたのです。
まとめると、精神性発汗に見られる身体の反応が一番早く、それに従って実際の行動が変化し、その後、勘のような感覚が生まれ、最終的に意識的認識に至るということになります。アイオワギャンブリング課題のこうした解釈には色々と反論が存在していますが、意志が身体の反応や行動に対して、後付けで決まっているという仮説への重要な根拠となっているのは間違いありません。
人間には自由意志は存在せず、あるのはダマシオによれば「情動」と呼ばれる身体反応で、広く大雑把に言えば「無意識」です。無意識をコントロールする技術である催眠の重要性がとてもよく分かるのです。
☆関連書籍:『未来は決まっており、自分の意志など存在しない。 心理学的決定論』
最近のコメント