「ステレオタイプ脅威」に抗う試み

「自分の所属している集団が持っている社会的なイメージ(ステレオタイプ)を構成員が意識すると、自分自身もそうに違いないと考え、ステレオタイプと同じ方向に変化して行くというものです。
例えば、「黒人は白人よりも攻撃的だ」という社会的な偏ったイメージがある状況で、或る黒人自身が、自分を攻撃的な人間だと考えたり、犯罪を働いても当たり前だと考えてしまったりするようなことです。」

これは中野信子の『人は、なぜ他人を許せないのか』の一節です。男性に比べて集団的な価値観を尊重するようにできている女性では、同じ現象で、社会の持つ女性のあるべきイメージに女性が影響されているという研究結果も合わせて紹介されています。

男女に数学的能力を測定するテストを解かせる際、性別を書かせると女性の成績が悪くなり、大学名を書かせると女性の成績が良くなるという結果まであると言います。こうなると、ステレオタイプ脅威の問題というよりも、催眠技術の観点で言うなら、「女性であること」や「特定の大学の在校生であること」の暗示をテスト前に入れたものと見做した方がより事態を理解しやすくなります。

子供の頃から女の子には人形遊びやおままごとをさせるから、女性は女性の役割を果たすことを刷り込まれるのだという説が信じられていた時代がありました。それが誤っており、脳構造の性差によって、乳幼児期の性向が決まっていることが、今は知られています。しかし、間違いなく社会の価値観も(多分、かなり後になってから)暗示として女性に刷り込まれていることが分かります。

暗示として刷り込まれているものを解消するには、それを打ち消す暗示が必要です。社会全体を覆う暗示に対して個々人がそれに抗う暗示を自立的に入れる必要があるのだろうと思われます。