「ショー催眠」と呼ばれることもある演芸催眠は、手掛けている催眠術師が非常に多く、一方で往年にテレビでも催眠術を披露して有名だった師匠の吉田かずおから「演芸催眠は行き詰まっている」とよく聞かされていたので、この仕事を始めるようになって以来、やったことがありませんでした。
先日、夕方の仕事で知り合いになった人物のお誘いでそのまま流れて行ったバーで、スタッフから「演芸催眠を見せて欲しい」(正確には「催眠体験をしてみたい」)とお願いされて、初めて即興の演芸催眠を行なうことにしました。
お題は「無味のチューハイに味をつける」でした。ヒプノセラピーでも偏食などのご相談には、この「味が変わる」催眠暗示を使うことがあり得ますが、私は実際にやったことがありません。
通常、演芸催眠では予備催眠の過程があり、かかりやすいことが確認された対象者を相手に催眠を掛けるものですし、催眠術師本人が得意としている暗示を書き込むのが定番です。そして、普通は「手が動かない」など、比較的浅い催眠状態でも入りやすい運動支配の暗示から始めるのが一般的です。
そのように考えると、ラポール形成も危うい初対面の相手に、いきなり深めの催眠状態が必要な感覚支配の暗示を入れることを、当日何か権威性があるような風体をしている訳でもない全く演芸催眠未経験の私が、被暗示性テストも予備催眠もなく行なう…という難しい話に思えました。僅かに有利な点があるとしたら、本人が好きなレモン味が題材であることで、全く愛着も何もない味のケースよりは大分マシなぐらいです。
壁に頭がもたれられる位置に椅子を三脚おいて、中央の席に座って貰って、両サイドの椅子に両腕を脱力して下ろしてもらいました。バーにしてはやや明るめの環境でBGMも多少下げてもらい、吉田式呼吸法で入念に誘導しました。そして、自分の好きなレモン味を頭の中で反芻して貰った後に、ゆっくりと目を開けてもらうと同時に、口に入れたものがレモン味になると暗示を入れて、試してみてもらいました。
ガッツリとレモン味になった訳ではなかったようですが、「間違いなくレモン風味になっている」とのことで、一応成功したようです。その後、解除する暗示を入れたらきちんと元に戻り、味覚の変化を再確認してもらいました。
吉田先生はよく「催眠にかけられない相手はいない。かけられないのは催眠術師が下手なだけ」と言っていましたが、「下手」の烙印が押されなくて非常に安堵しました。吉田式呼吸法の安定した効果を実感する体験でもありました。
☆関連書籍:『マニュアル通りでできる! 万能催眠誘導法 吉田式呼吸法のすべて』
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