性同一障害の方への催眠施術(吉田かずお先生の場合)

2023年1月に亡くなる半年ほど前に吉田かずお先生は性同一障害の人物に何回か施術を重ねているという話をよくしていました。心は女性なのに体は男性と言う、(吉田先生は、その言葉を知らないために使っていませんでしたが)MtFの30代の人物だったようです。

こうした場合の吉田先生の施術パターンは、5回から6回の催眠セッションを設けることにし、前半2回から3回は対象者の悩みを解決する暗示を入れるのではなく、単に催眠誘導を重ねるだけであったり、催眠誘導の後に演芸催眠のような「腕が動かない」、「レモンの味が違って感じる」、「自分の名前が思い出せない」のような施術を重ねるものだったりします。

これを反復することで、対象者はどんどん催眠に入りやすくなり、同時に深い催眠状態に誘導しやすくなります。さらに、暗示によって腕が上がらなくなったり、味覚が変わったり、名前さえ思い出せなくなることで、「自分は催眠暗示の言った通りになる」という認識を強めて行きます。

この状態が完成してから、吉田先生は「自分は女性だ。女性の身体で、女性の心で、毎日を明るく過ごす。誰も気にしていないあたりまえのことだ。」というような暗示を繰り返し入れたようです。(吉田先生は施術中に自身も催眠状態になっているため暗示の文章そのものを正確に記憶していませんでしたが、そのような施術であったのは間違いありません。)この施術を深催眠状態の対象者に日をあけながら何度も行なったようです。

その結果、外見からも分かるほどに胸も臀部も膨らんで来たと言います。さらに、吉田先生も確認したと言っていましたが、明らかに男性器も小さくなったようです。(勃起することもなくなったと本人が言っていたとのことでした。)

しかし、何よりも最大の変化は、本人が「合理化」のため殆ど自覚していない、ストレスの解消であったろうと思われます。女性として周囲の目を気にせず生活できるような心理になったこと自体が、この対象者の福音であったろうと考えられます。

無意識への暗示の書き込みが脳の回路を変更し、ホルモン・バランスまで変えた結果と考えられますが、「催眠は『アイディアとセンス』が重要」という吉田先生の飽くなき催眠の可能性の追求の姿勢を改めて感じさせられた事例でした。

☆参考書籍
 『伝説の催眠術師、吉田かずお先生からならったこと: 二年目の催眠感想文
 『LGBTだけじゃ、ない! 「性別」のハナシ