変性意識状態はあるのか 状態論と非状態論

催眠術の入門書には…

「対象者を変性意識状態にすることを催眠誘導と呼び、その変性意識状態になると意識の壁が取り払われ、催眠術師が対象者の無意識にアクセスできるようになる」
といった説明が為されることが多いようです。そのような説明がほとんどなく、変性意識状態が明確に存在するということを前提に説明が進んでいる書籍もあります。

催眠術についての考え方で「状態論」と「非状態論」ということが議論になることがあります。状態論の方は従来の催眠術の説明のように、「変性意識状態が存在」し、それを催眠誘導で導き出すという考え方です。これに対して「非状態論」は、そもそも「変性意識状態が存在していない」、ないしは「変性意識状態が催眠には必ずしも必要ではない」という考え方です。

現実に誘導を行なわず暗示文を読んで聞かせるだけで(その状況や読み方など色々な要素に左右されますが)一定割合の対象者は催眠状態になり暗示が書き込まれます。「手が動かなくなる」と伝えれば、一部の人は本当に手が動かなくなるのです。

また、MRI技術などの発展によって脳活動が詳細に把握されるようになっても、「変性意識状態」として明確に括れる状態が見つからないことも非状態論を強化している要因です。

状態論と非状態論の議論は明確な結論が出ていません。両極端ないずれかではなく、両者の間に何らかの答えがあるという見方をするべきでしょう。

吉田かずお先生の考える吉田式催眠観では「変性意識状態」はあるものとされていますが、施術において「催眠誘導」のプロセスはあまり重視されていません。吉田先生も定番の吉田式呼吸法をいつも用いていた訳では全くありませんし、吉田先生に教えて戴いた私も、誘導抜きの瞬間催眠的な施術を一定条件下で行なうことができます。

また、便宜上「変性意識状態」と呼ぶ状態があるとしていますが、その中には作業に没頭している没入・没我を始め、恍惚、驚愕や性的絶頂、さらに禅などの無我や飲酒による酩酊などの各種の精神的状況が大雑把に一括りにされているという考え方で、特定の「変性意識状態」があるとは考えていません。

そして、吉田先生に拠れば、催眠は催眠術師に拠ることなく発生することもある現象であって、催眠術師はプロの技術を以て、その状況を意図的に起こし活用することができるとされています。そのように見る時、吉田式催眠観が既に状態論と非状態論の間に位置している考え方であることが分かるのです。

☆参考書籍:『はじめての催眠術