脳内の活動と連動する鼻呼吸

「脳がはっきりしない、頭がはたらかないといった症状は、脳に切りがかかったような状態でブレインフォグといわれます。脳幹から投射するセロトニン系やアドレナリン系が、十分に前頭葉を賦活してくれないないからです。
実は鼻呼吸が重要になってきます。呼吸には左右の鼻腔から周期的に空気が流入しています。数十分から数時間の周期性がみられます。特に睡眠時にこれがはっきりとあらわれます。この周期性に、左右の脳の活動が関連していることが明らかになりました。鼻呼吸が脳のはたらきを左右交代で活性化させています。口呼吸は脳を刺激しません。」

これは東京・千代田区にある大場徒手医学研究所の大場弘先生が自身の身体呼吸療法の説明リーフレットで述べている内容です。

この説明には複数のグラフが添えられており、それらに拠れば、鼻呼吸の量の振幅の波は、脳の梨状皮質・扁桃体・海馬のLFP(Local Field Potential: 局所集合電位)の波と同期しているのに対して、口呼吸の量の振幅の波は全く同期が見られないのです。

大場先生に拠れば、脳の活動のリズム、自律神経の揺らぎ、リンパ管の収縮のリズムなども呼吸のリズムと連動しており、また心拍数も安静時には呼吸と一定比率にあると説明されています。

吉田式呼吸法は、ゆっくりとした呼吸をすることに拠って肺の動きをゆっくりとさせ、そこから自律神経を通して全身において副交感神経優位の「弛緩状態」を作ると理解されています。その際の呼吸については、鼻呼吸でも口呼吸でもどちらでも構わないと理解されていましたが、脳に対する働きかけと言う観点からは、大場先生の説に従うなら、鼻呼吸であることが理想であるということになります。

吉田式呼吸法に拠る催眠誘導にあたっては、「ゆっくりとした呼吸」・「深い呼吸」・「胸やお腹から息を集めてくるような深く吐く呼吸」などを対象者に伝えますが、その結果、多くの対象者は鼻呼吸によって弛緩を深めて行きます。それに対して、緊張系の誘導法である「短息の催眠」は、「ハッ、ハッ」と短い息を繰り返すように促して催眠誘導しますが、その呼吸は口を通したものになります。このような違いが大場先生の説明とうまく合致しており、納得のいくものとなっていることが分かるのです。

☆参考書籍:
臨床機能神経学解説「大脳半球間インバランス」』大場弘著
身体呼吸療法の奥義を語る』大場弘編著