米国の多数の大手企業でマインドフルネスが社員研修として採用されています。マインドフルネスはご存じの通り、数千年の歴史を持つ仏教などの瞑想が基になっていて、ストレスの軽減や集中力の強化につながるとされています。年俸契約ベースのジョブ型雇用がメインの米国大手企業では、社員研修は日本ほど行なわれていません。それでもマインドフルネスが研修として採用されるのには、単に従業員の動機や能動性を引き上げる効果以上のものに対する企業側の期待があるからです。
サンフランシスコ州立大学の経営学者にして禅僧でもあるという珍しいキャリアのロナルド・パーサーは、大手企業が社内研修としてマインドフルネスを採用することに警鐘を鳴らしています。それは、マインドフルネスが従業員個人のストレス対処能力を向上させる一方で、職場環境や組織文化の問題を覆い隠すものとしても機能しているからです。
マインドフルネスの考え方に拠れば「不満と苦痛の根本的な原因が私たちの頭の中にある」ことになります。つまり、会社の組織運営や経営方針に問題があっても、仕事で強いストレスを感じるのは従業員のストレス耐性が低いことが原因であると解釈して、従業員に「個人レベル」で対応させることになるのです。単純に言うと、問題の責任を組織から従業員の認識に転嫁させてしまえるのです。
米国では、大手企業が研修として採用するだけではなく、行政機関が貧困層向けのワークショップに採用することもあるようです。貧困でどんな悲惨な毎日を送っていても「すべては認識次第」ということにしようとしているでしょう。たとえば、若者を魅了するサービス業の職場などで頻発する「やりがい搾取」も、概ね同じ構造で発生していると考えられます。
マインドフルネスは歴史上、自律訓練法を超えるほどの普及度合いの自己催眠法です。当然ですが、マインドフルネスでできることは、他者催眠ならもっと高い効果を挙げられます。催眠技術によって、組織の問題を組織の中の人間の認識の問題に還元して、その解消を支援する。そんなことが催眠技術なら簡単に実現できてしまうのです。
☆参考書籍:『McMindfulness: How Mindfulness Became the New Capitalist Spirituality』
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