冷水浴が快感となる仕組み

「プラハのカレル大学の科学者たちは論文誌『欧州応用生理学ジャーナル』に次のように発表している。14℃の冷水に1時間身を浸す(頭は出している)という実験に10人の男性が参加した。血液サンプルを調べると、冷水に浸かると血漿ドーパミン濃度が250%、血漿ノルエピネフリン濃度が530%増加することが明らかになった。
ドーパミンは冷水浴をしている間、徐々にそして確実に上がっていって、出た後も1時間ほど高い状態を保っていた。ノルエピネフリンは最初の30分で急激に上がり、その後の30分は頭打ちとなり、冷水から出た後1時間で3分の1にまで下がったが、冷水浴後2時間を過ぎても基準値以上の状態を保っていた。ドーパミンとノルエピネフリン量は、苦痛な刺激そのものから解放された後まで長い間、高い値を維持したのである」

スタンフォード大学医学部教授のアンナ・レンブケが著した『ドーパミン中毒』の中の文章です。ドーパミンは脳内快楽物質で、それを強く情事求める状態になるのが各種の依存症です。レンブケはゲーム、SNS、酒、ギャンブル、薬物、恋愛、セックスなど、快楽をビジネスにする「ドーパミン経済」が全世界的に広がっており、現代人が依存に簡単に陥る社会が現実化していると警鐘を鳴らしています。

その中で、冷水を浴びるような、苦痛に感じられることも、ドーパミンを大量に発生させる要因の一つであることが述べられています。滝行やまだ寒い季節の浜辺で海岸に入るなどの伝統的な儀式や修行法などはよく知られていますし、最近は、冷水を組み合わせたサウナで心身を「整える」ことも流行しています。これらの裏にドーパミンが大量に生成され、「ハイになる」状態があることを知ると、これらによって変性意識状態が導かれることが分かります。

冷水の苦痛に耐えて、それが快感に変わること。それは精神を整える手間や学びが不要の、手っ取り早い効果的な自己催眠の手法だったと言えるかもしれません。

☆参考書籍:『ドーパミン中毒