有名なコミック『ブラック・ジャック』の第207話『20年目の暗示』(コミック(オリジナル版)第22巻収録)で、天才外科医ブラック・ジャックは手術中に指が強張って動かなくなってくる経験をします。その強張りは、その後どんどん悪化して硬直に至るようになり、手術ができないだけではなく、日常生活にも支障が出るようになってきます。
ブラック・ジャックは子供の頃、土中の不発弾の爆発で身体が寸断された経験があり、本間丈太郎という優れた外科医によって、千切れた指や片足の接合手術が行われ、長く苦しいリハビリの末に日常生活に戻ることができたのでした。手術後の回復は完璧で、硬直した手の指のX線写真にも全く異常は見つからず、精神的な原因を疑うことになります。
ブラック・ジャックは亡き本間医師と同僚だった浅草上乃という精神科医を訪ねてみます。この精神科医がブラック・ジャックに退行催眠をかけて、思い出せない記憶の空白があることを見つけ出します。そして、この精神科医が実は意図せず少年時代のブラック・ジャックに暗示を入れていたことが発覚するのです。
手術を終えた本間医師に浅草医師は…
「きみの手術は失敗だ。おそらくからだのあちこち…手や指などは二十年も経てば衰弱して用をなさなくなるだろう」と告げたのでした。それをベッドで寝たままのブラック・ジャックは聞いて、暗示として受け止めて、まさに二十年後に指が硬直して動かなくなってきたということだったのです。
上手くいかない手術に臨もうとしているブラック・ジャックの家に慌てて訪れた浅草医師は、手術室にまで乗り込んで、その場でブラック・ジャックに催眠をかけ、20年前の暗示を解除して詫びたのでした。
私が「タイマー設定付の暗示」などと呼ぶことがあるこのような暗示を吉田かずお先生も対象者に書き込むことがありました。受験勉強が終わるまでの期間は自分がゲーム好きだったことを忘れさせてしまう(よく年四月になったら思い出すということです。)暗示を受験生に入れたことがあるとも言っていました。
長い時間を超えて、人間の無意識は書き込まれた暗示を維持することがあり、催眠技術を扱う者は、そういった現象もきちんとコントロールすることができなくてはならないのです。
☆参考書籍:『ブラック・ジャック 22』
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