現在の英語表現の催眠術にさえ“hypnotism”に並んで“mesmerism”と言う単語に名を残すフランツ・アントン・メスメルは18世紀後半のヨーロッパで催眠療法の大ブームを巻き起こした医師です。しかし、彼は自分が行なっていることを、17世紀初頭のケプラーの研究以降発展を遂げた惑星間重力や磁力と関係があるものと考え、「動物磁気(当初は動物重力)」による治療と認識していました。フランクリンやラボアディエを含む王室調査委員会に科学的根拠を否定され、晩年には錬金術にさえ可能性を求め始めていました。
彼の死後、科学者や医者はメスメリズムと呼ばれる療法に軽蔑の目を向けてきましたが、19世紀前半になっても一般大衆の間でメスメリズムの熱は冷めず、イギリスでは多くの関連出版が行なわれ、多数の療法家が各地を巡回していました。
そのような時代背景の中で、メスメルに直接メスメリズムを習ったピュイセギュール侯爵(本名アルマン・マリー=ジャック・ド・シャストゥネ)は、自分の領地の羊飼いなどに施術を行なう中で、メスメルが施術の中で必然と考えていた発作や痙攣を経ずに催眠性トランスに対象者が至ることや、メスメルが重視していた「磁気を帯びた流体」も必要ではないことを発見しました。
さらに彼は施術において「意志」と「信頼」が備わっていることが重要であると見抜きましたし、催眠状態の対象者に話しかけ、症状改善に向けた暗示を与えることを重視するようになったのです。
吉田かずお先生の催眠の考え方において、施術の上で重要なのは「ラポール形成」と「暗示」であって、誘導法や覚醒法では必ずしもありません。その観点で見ると、当時絶大な人気を誇ったメスメリズムの流行の中で、催眠の本質を見抜いたピュイセギュール侯爵の卓見はもっと評価されるべきです。
現在、「メスメリズムと呼ばれる催眠療法」をする施術者もメスメルのような水桶や棒を使いはしません。つまり、ピュイセギュール侯爵は、有効な「メスメリズムと呼ばれる催眠療法」を実質的に確立した人物と考えることができるのです。
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